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ふとサルの後方に目をやると、まだ店先に出たままの壱弥さんが、笑って小さく手を振ってくれた。
「転んじゃダメだよー!」
サルと俺、両方にかけられたであろう言葉に、思わず苦笑が漏れる。小学生か。小さく手を振り返した俺のすぐ後ろで、サルが笑って言った。
「ダイジョブっすてんちょー! 転んだ時は拓真も道連れなんで!」
「っおい」
「アンタら遅いわよー!」
早く来なさい置いてくわよっ! と先程より更に空いた距離の向こうで姉御が騒ぐ。はいはいと返事をしてもう一度後ろを振り返ると、やっぱり壱弥さんが笑っていた。
(なんか、遊びに行く子供を見送る親みたいだな……)
……自分で考えといてなんだけど、あんまりにもピッタリ過ぎてちょっと複雑な気分になった。
……でも。
そんな雰囲気が、優しい空気が。
この、日常が。
(嫌いじゃない、なんて)
……今はまだ、言わないでおこう。
そんな気分の、とある日常。
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