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突然、彼女は僕の腰に手を回した。
そのまま身を預けられ、僕は一瞬後ろに倒れそうになる。女の子であるはずなのに彼女は中2平均身長の僕と同じくらいの背丈だった。
「私、楽しかった……異世界に来て最初に会ったのが貴方でよかった……」
僕の肩に顔をうずめてくる。
肩が湿ってくるのは気のせいか。
僕はなんて言えばいいかわからずしばらく固まっていた。
しかし彼女はすぐに顔をあげ、腰から手を離した。
まるで別人のようにりんとした表情で周りの人に向けて一礼した。
「異世界の皆さん。ご迷惑をおかけして本当にすみませんでした。そしてご協力ありがとうございました」
それに答える声が幾つか飛んできたが彼女はそれに答えず裂け目に向かい歩いていった。
「ま……待って!」
「止めないで!」
お互い涙声だった。
彼女は振り向かず、決して振り向かずに拳を握りしめながら言った。
「これ以上いると、帰れなくなっちゃう」
それはこの裂け目の制限時間の話なのか、ここで暮らしたいという願望だったのか――今になっては分からない。
彼女はそのまま裂け目の中へと消えていく。
裂け目がそれに反応したように閉じていく。
彼女はとうとう裂け目の中でも振り向かなかった。
閉まる間際、彼女の声が聞こえたがよく聞こえなかった――
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