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そんなはちゃめちゃぶりの天狗衆に兎は呆れたため息を洩らします。
「成る程……半蔵、お主の言っておったことは真であったようだの……」
兎は首を振りつつ半蔵の縄をほどきました。
半蔵は肩を回して体をほぐします。
「それに有兎、あれは天狗姫であっても上様の側室。殺せはせんのだ」
「未だ信じられぬ……あれが寵愛されるような方様であろうか」
「だから申しておろう。江戸へ戻ってくれば方様の変貌ぶりがよくわかると。それに禍根など馬鹿らしい限り。お主はお主の好きな道を行けばよい」
「そうは申しても……わしは忍びはもう嫌じゃ。気儘がよい」
兎は溜め息ばかりつき、転がっている黄達磨を手にし目を押して素早く天狗姫たちのほうへ投げ込みました。
「煙幕も使えん天狗衆とは笑わせるっ」
兎の鋭い声とともに、もうもうと煙が立ち上ります。
噎せる天狗衆。咳き込みながら苦々しい思いに溢れましたが、辺りが晴れると目の前には、すっかり解放されている半蔵と、般若面を左横にずらし素顔を晒した兎が立っております。はて、この兎、随分と見目よいようで……。
「どうやら、今生の天狗衆は始末する価値もないようにござる」
そう言って兎は天狗姫の前へと歩みより、跪きました。
「安易ではござりましたが、ほんに方様であられたとは……」
「ええ、お琴です」
天狗姫はぶすっとして答えましたが、少々面白くない様子。
戦わずして全てが解決してしまうのですから拍子抜けものでした。そんな膨れっ面の天狗姫をよそに兎は目を細めます。
「しかし、方様。拙者は一人だけ許せぬものがおります」
「……地蔵かしら?」
「ご存じで?」
兎は地蔵に目を移し、素早く近づいて殴りました。
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