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「何だ、結局こんな落ちかい! 何のために鉄傘持ってきたんだ、武器を拵えたんだ」
おおよそ大袈裟な身振り手振りで、わざと落胆してみせる地蔵に、兎は己が馬鹿らしく情けなくさえ思えました。
(こんな阿呆すら許せぬでは、拙者が小物ではござらんか)
兎は頭を振って地蔵の肩を叩きました。
「地蔵、大奥の秘密を他言せぬなら許す」
「言うわけねえさ。ただ……ちぃと訊きてえんだが?」
「何だ」
「そりゃ勿論。一つ、偽天狗の誘きだしに深井の面を使ったのは天狗姫の正体を知ってたからかい? 二つ、盗んだ金はどうなってんだい? 三つ、白毫なんたらてのは何だい?」
そうです。忘れかけていましたが気になっていたことを地蔵がすかさず問いかけます。
皆も興味津々に兎を覗き込みました。
「ああ、そのことか。一つ、半信半疑。二つ、金はこっそり返している。三つ、因縁。昔、千賀地の地蔵が有兎を裏切り白毫の天狗に与したから」
「……三つめは、いまいち、わかんねぇなぁ」
「拙者も言い伝えでしか知らぬ。ただ、世鬼有兎政直は千賀地を信頼していたが故、慈悲などくれてやらぬと、その命を狙っておった」
すました顔で言う兎に天狗姫は、眉をつりあげ鼻息荒くなります。
「よく知りもせず、こんなことするなんてっ」
「ごもっともにござる……」
兎は悪びれた様子もなく頷き、そこら中に転がっている黄色い達磨を回収して回っています。
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