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そんなわけで、兎と地蔵を除いて、皆平穏な日々を取り戻していました。
天狗姫はいつものように上様とまったりしながら、会話を楽しみます。
「結局、何事もなく偽天狗騒動が終わってしまって……本当につまらないわ」
「そうであろうな。然れど胡斐が無事であることが一番だ」
上様はにこにこと頷き、天狗姫……いえ、お琴……いえいえ、胡斐の頭を撫でます。
けれども胡斐は面白くない様子。
どうしたのか、と上様がお訊ねになると、胡斐は目を三角にし頬を膨らませます。
「あんまりだからですっ!」
「まあまあ、そう怒らずとも」
「いいえっ、すべてが父上の筋書き通りであったということが気に入りません!」
そう言って枕を叩く胡斐を上様はやんわりと宥めます。
「世鬼有兎が始末請負をやめなければ、胡斐も危うかったかもしれんのだ」
「違います……。父上は私に伊勢参りをさせたかっただけにございますっ」
胡斐が真っ赤になりつつも、ぼそりと反論したことに、上様はくすくすと笑いだし胡斐を優しく抱きしめました。
「なるほど。そういうことであったか。ならば、余もその筋書きに乗せられたことになるか」
「……はい」
「ふむ。まあ、よい。ご利益次第では、いずれ左様になるであろう」
上様はおおらかに笑い、このあとも続く胡斐の反論、さらに続くであろうお転婆劇に耳を傾けるのでした。
【おしまい】
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