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達磨と天狗姫が心配するも、地蔵はおかまいなし。
その頃、河童は風呂の前で首を傾げていました。
風呂の蓋を取ったはいいものの、そのまま中へ入ると足や尻が焼けるように熱くちっとも湯に浸かることができません。
実はこの風呂、縁は木桶で底のみが鉄でできている五右衛門風呂というものです。
「こりゃ、どうしたもんです。達磨たちはどうやって入ったんでしょ」
河童は気位が高いので、人に聞くということはしません。
暫く考えた後、辺りを見回すと雪隠の近くに下駄がありました。
「そうか。この下駄をはいて入るのか」
河童は阿呆な解釈をして下駄をはいたまま、湯に入りました。
勿論、天狗姫と達磨はそんなことしません。河童が蓋と思って取った板に乗っかって湯に入りました。
天狗姫はこの風呂の入り方を知っていましたし、達磨は宿の者に聞いていました。
とにかく、江戸っ子の河童は、この五右衛門風呂のことを知らなかったのです。
「まったく、下駄をはいて入るなんて、変わった風呂だねえ」
などと言いながらも、気持ちよく入っていましたが、ふいに悪戯心が湧きました。
「このあとは地蔵が入るんでしたねぇ……団子の仕返しだ。下駄を隠してしまえ」
河童は、地蔵が悪戦苦闘する様を思い浮かべて、にやにやしながら風呂からあがり下駄を隠してしまいました。
そして、何食わぬ顔で部屋へ戻り、煙草盆の火入れに炭を入れながら、
「地蔵よ、早く風呂行ってきな」
「お、なんだ。もうあがってきたのか」
よっと、声をあげて立ち上がり、地蔵は少しふらつきながら風呂へと行きました。
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