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天狗姫と達磨は呆れて項垂れました。
「地蔵……あんた、五右衛門風呂を知らないの?」
「五右衛門?……石川五右衛門?」
「違うわよっ!風呂の上に板があったでしょ」
「ああ、蓋?」
「ふ、蓋?……あの板を底に沈めて入るんだけど?」
「……そうなの?」
地蔵は苦笑いしつつ、河童には含み笑いを向けます。
河童はあたふたし両手を擦り合わせ地蔵に口止めをお願いします。仕方なく地蔵は面目無さそうにしながらも悪びれた様子もなく、壊れた風呂を眺めて宿主に、
「絶景かな、絶景かな。春の眺めは価千金とは、小せい、小せい。この五右衛門には価万両……」
などと抜かします。宿主はぽかんとし達磨を見やりますが、すかさず河童が口を挟みます。
「石川や浜の真砂は尽くるとも世に盗人の種は尽くまじ」
と、地蔵の科白の後に続けました。
訳のわからない見得をきってどうするのでしょう。
しかし、河童は宿主に丁重に詫びながら修理代を支払いました。
そして、部屋へ戻る途中、地蔵はこっそりと河童へ耳打ちします。
「とんだ散財だったなあ。けど、こいつぁ、てめえのせいだぜ?」
「ええ、ええ、そうですとも。しかし、地蔵も悪い。跳びはねずとも」
「さあなぁ。酔ってたし」
「酔ってたで済まされる話ばかりではないわっ」
「はいはい。いい湯だったなぁ」
地蔵は口笛ふいて楽しそうに歩いていってしまいました。
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