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――由香がチャイムを何度鳴らしても応答はなかった。
玄関のドアノブを捻り、そっと押し開ける。
ギギっと戸の軋む音がした他には、物音ひとつ聞こえて来ない。
「……真奈美?」
由香は妙な胸騒ぎを覚えた。
そしてゆっくり足を踏み入れた瞬間、目に飛び込んできた光景と、生臭い血の匂いに息を飲む。
――二人を取り囲む時が止まる…
由香はしばらく動けずにいた。
ちゃんと息を吸えているのかさえ自分でも分からないほどに、我を見失った。
そしてカッと目を見開いたまま
一歩一歩、震える足で…
静かに横たわる真奈美に歩み寄って行った。
深紅の絨毯の上へ誰かがポツンと置き忘れた人形のように
ただ冷たく横たわるその美しい姿へと…
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