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地面に尻餅を着いて倒れた。ワナワナと震える顎。噛み合わない口、ガチガチとなる歯。不思議と矛盾した表現で矛盾しない心理的描写。
「なんだ、何も知らないのか。――なんともまぁ人間は脆い。儚い。汚い。醜い。愛おしいという感情など到底、抱けそうもない。人間臭い人類など死ねば良い。私達の餌という身分なのだから。何も有益なモノを持たないなら」
「……餌…影…尖った歯……?」
「シネバイイ」
ここで僕の思考は荒々しいまでに塗りたくられた赤に染まった。もはや暴虐的なまでに赤い、赤い、赤い、血に染まった。
どこか他人事のように見ていた。空を舞う血飛沫を見ていても、玉のような血を見ていても、動脈から噴き出す血柱を見ていても、痛みはまだ来なかった。
キラリと輝く男の指先。赤く染まった爪。どこか楽しそうな笑顔を浮かべた男の顔を見て、僕は最後に寒気を感じた。
これが僕の最後。
十七歳。最後の春休み。最後の土曜日。
嫌いな日曜日は――もう来ない。
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