第一唱・ジェントルワン

3/24
前へ
/2673ページ
次へ
「あんた見ない顔だね」  力強そうな八百屋のおばさんが若い女性客に話しかける。  憂鬱そうな顔をしていたからだ。 「昨日この町に着きました」  金髪ショートのくせっ毛。横縞のシャツ。黄色のスッタフジャンパーのような上着。ポケットの多いハーフパンツ。ファッショナブルとはいえない。 「仕事かい?」 「記者です」  おばさんは若い記者が元気がない理由を察する。 「そりゃ、左遷かい。こんなところじゃ記事にもらないでしょうに」 「いえ、そんなことは……」  ごまかし気味の否定。 「平和で、いいところですよ」 「あんたたちはそれじゃメシは食えないんだろ」  おばさんは適当に野菜を見繕って包む。 「これやるから、下品な記事だけは書くんじゃないよ」 「いいんですか!ありがとうございます!」  元気が出てきた。 「いい話って記事にしてもいいよ。はっはっは」  豪快。
/2673ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1880人が本棚に入れています
本棚に追加