第一唱・ジェントルワン

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 ふと何か小さなものが近づいてきた。  白い耳の垂れた犬。オレンジのフカーフに帽子。随分と身なりに気を使った犬だ。  前足にだけ手袋のようなものをしている。  首にはアクセサリーのように小さな懐中時計がぶら下がる。  口には買い物籠のようなものを銜えている。 「おや、オッタ。いらっしゃい」  八百屋のおばさんは顔見知り。  これほど特徴のある犬なら町では有名なのだろうと思われる。  記者はもらった野菜をしまうとメモ帳を取り出す。  犬は籠を置くと二本足で立ち上がり、帽子を脱ぎ会釈をする。  それだけで記者の女は驚いて目を丸くしていたが、それでは終わらない。 「今日は。いいお天気でなにより」 「しゃべった?」
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