第一唱・ジェントルワン

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「国の情勢など急を要することもあります。今だって号外があるでしょう。あとは情報の伝達速度ですね。一般向けに普及するまでもうしばらくかかるでしょう」  唖然とするコミカナ。 「も、もしかして私よりずっと頭がいい?」 「おっと奥様。私、買い物に来たのでした」  八百屋のおばさんは赤いリンゴと青いリンゴを二つずつ持つ。 「いつもどおりリンゴ四個でいいのかい?」 「はい」  コミカナはじっと見る。手袋のようなものをはずすとやはり肉球だ。  籠の中からがま口の財布を出す。不自然な安定感。  そして触れることなく口が開く。 「あ」  声が漏れた。  オッタはあまり気にせず銅貨を二枚出した。くっついているのか浮いているのか。  籠にリンゴが四つ。支払いも済んだ。 「では、私はこれで失礼します」  帽子を脱いで挨拶をすると、手袋をはめ、籠を銜えて坂を登っていく。
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