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三月
この世で一番美しいものは桜の散り様だと思う。
風に吹かれて花弁が空を舞う瞬間……
これ以上に美しいものを私は知らない。
今はまだ蕾がついた程度の桜の木に目を遣る。
「桜って満開が一番、綺麗ですよね!」
私の目線を追って、話題を出そうとしたのだろうか。この……男性は。
「……ええ」
私は適当にそう答える。
「だと思いました!朔殿は美しい人だから満開の桜が似合う!」
……阿呆なのかしら、この人は。
私は今、見合いの最中。何回目の見合いだったかしら……ひぃ、ふぅ、みぃ、よぅ……あっ、両手では足りなかったんだ。
さて……今回はどうしてやりましょうか。
この阿呆男に……
「あのう……」
「はい、何でしょう!?」
「私、口が臭い殿方と夫婦になるの無理なんです」
「……は?」
朔の発言に固まる見合いの相手。
「私の顔の近くで口を開かないでくれませんか?先ほどから口臭が気になって仕方ないのですよ」
にっこりと笑みを見合い相手に向けると、男性は今にも泣きそうな表情になり
「かあさまー!!!」
と喚きながら、その場から逃げて行った。
「……情けない男」
朔は両親が待機している部屋には戻らずに店を出ることにした。
……また父上に叱られるわ。でも……いいか。私は私の信念を貫いているだけなのだから。
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