無理矢理な祝言

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家に帰ると、父上が鬼の形相で私を出迎えてくれた。 「朔!いい加減にしろ!いいか、今日の見合い相手は旗本の三男坊だったんだぞ。頭は弱いかもしれんが家柄に申し分はない……ああ勿体ない!」 「……」 長雨家は先代の時代に江戸から京へやって来た商家。苗字帯刀も許されている結構な家柄。 長雨家には既に立派な跡継ぎがいるのだから、私は自由にしてくれても良いと思うが、そうはいかないらしい。 子育てが済むまで隠居暮らしは出来ない。つまり、私が嫁ぐまで。 「私は今年還暦だぞ。お前は年がいってから出来た子で――」 始まってしまった…… この話しを始めると話しが長くなる。 私は父上が四十、母上が三十の時に生まれた子供。母上は二度妊娠したが流れてしまい、もう二度と子供は出来ないだろう、と諦めて数年経った頃に出来たのが私。 年がいって出来た子供だから可愛いがられている、と大半の人は思うかもしれないが、長雨家では十五も離れた兄上が絶対的存在で……両親共に私を可愛がってくれたといった記憶はない。常に側にいてくれた乳母が母上みたいなもの。 啓兄様は優秀で、商人としての才覚もあり、両親からも店の者達からも信頼されている。 そんな立派な兄上が私は……苦手。私と目を合わせて話すことなど一年に一度あるか、ないか。私も自然と避けてしまう。 「私は早く啓(はじめ)に店を譲り、隠居したいんだ」 「私は何と言われても自分で相手を決めたいんです」 「それで、二十を越えようとしても嫁にいってないとはどういうわけだ。世間体を考えろ。この親不孝者が!!」 「……」 私は……ただ、好きな人と一緒になって幸せになりたいだけ。それのどこがいけないのかしら? .
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