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立ち上がろうにも、
(足が…)
動かない。
動いてもいないのに、目が回るような感覚に、吐き気すら覚える。
「こっちだ!」
緊張感露に、駆け寄る男達の足音。
(どうとでもなれ。)
案外、開き直りの早い鈴鹿。
『…御前』
心配げな翠月の声に、鈴鹿は苦笑する。
「大丈夫。…なるようになる。」
なるようにしか、ならない。
言う鈴鹿に、黙る翠月。
と、
「こっちだ!おい!大丈夫か!?」
易々と見つかってしまった鈴鹿に、男が青ざめた顔で、駆け寄ってくる。
それもそうだろう。
手負いの女が、今にも死にそうな蒼白な顔をして、崩れ落ちているのだ。
鬼でも無ければ、放置など、出来ようか。
「…すみま…ん…背中、を…」
説明したいのに、舌が上手く回らない。
(駄目だ…意識が、もう…)
…もたない。
薄れていく意識の中で、しっかりしろ!抱え上げられながらも感じる。
居る筈の、
(あと、一人…)
ギラギラ。照り付ける太陽を目に、思わず細めれば…
(ああ…あんな所に…)
居たのか。
自分を見下ろす、黒装束の、男。
(…道理で。見付からない筈だ…)
思って、鈴鹿は自嘲気味に唇に弧を描き、そのまま意識を遠退けた。
その姿に、男が歯痒い様子で舌を打つ。
「新八は先に戻って医者を!」
男の指示に、黙って走り出す。
「源さん!」
残っている男を呼び、抱えた鈴鹿を診せる。
パタパタ…滴り落ちる鈴鹿の血に、
「佐之!背中だ!」
クルリ。鈴鹿に背を向けさせ、目の当たりにする…爪痕。
「…刀傷では無い。」
鈴鹿の背中に見る、四本の切創。
「…何にヤられたら、こんなになるんだ…」
初めて診る切創に、驚きを否めない。
だが、そんな悠長な場合では無い。
「この出血、命に関わる!」
「死なせて堪るか!」
それが、己の責務。
治安を守る。それ即ち、町人の命を背負う事。
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