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「目が覚めましたか?」
うつ伏せのまま、掛けられる声に、その顔は見えないけれど…
(あの時の紳士だ…)
直ぐに分かった。
…分かったから、顔を擦り付け、涙を消した。
「二日間、目覚めなかったけど、凄い回復力ですね」
二日も……
「死んでしまうかと思う程の傷だったのに、もう塞がりかけてる。」
パサ。うつ伏せの鈴鹿に、傷の具合を診ていた男が、全裸にただ掛けていただけの、薄い襦袢を上半身だけ捲る。
つ…つつつ。爪痕を撫でる。
それは、決して卑猥な感触ではなく、皮膚の出来具合を診ている指先。
(痛くない…。でも…たった二日、か。)
鬼といえど、身体は人間。
人間といえど、身体は鬼。
結局どっちつかずなのだ。
けれど、その事に落胆するのではなく。
ホッとする。安堵すら覚える。
(唯一、悪路王らとは違う。人間混じりの自分の身体。)
「助けて頂き、ありがとうございます。」
鈴鹿はゆっくりと身体を起こし、礼を言いつつ、無言で渡される着流しに袖を通す。
(少し大きいけど…着物。が、懐かしい。)
「ここは…?」
聞く鈴鹿に、男は苦笑して、
「病み上がり早々申し訳ないのだけれど…」
言い難そうな男の口調に、察する鈴鹿。
「発つ前に、聴取が必要なんですね?」
言ってやると、男は苦笑したまま頷いて、手を貸そう。と、伸ばして見せる。
けれど…
「大丈夫。一人で歩けますから」
鈴鹿はやんわり断り、案内を頼んだ。
一歩、また一歩。進む度、キシキシ。木の床が軋む。
「聞かれるのは、近藤局長だけですか?それとも、土方副長や山南さん・沖田さん・井上さん・藤堂さん・永倉さん・原田さんの、試衛館の方々も?」
鈴鹿の言葉に、開いた口も塞がらず、目を見開く顔に、
「試衛館の年長は、井上さんでしたか?でしたら、あなたが…」
言いかける鈴鹿に、男は慌ててその口を塞いだ。
「滅多な事は、部屋で話そう。間者と思われるよ。」
言い、鈴鹿を黙らせる。
(別に何と思われても構わないけど…)
思いながら、後に続いて歩く鈴鹿に、男は優しく微笑み、歩きながら自己紹介。
「その通り。私が井上 源三郎だよ。」
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