序章

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青ざめていく鈴鹿に対して、そんなこと、お構い無しに路が笑顔で手を伸ばす。 『どうしたの?鈴鹿。』 伸びてくる、路の手。 けれど鈴鹿はそれを叩き落とした。 『痛いなあー』 ヒラヒラ。手をさせる路に、本当に痛みを感じたのは、鈴鹿だった。 叩き落とした瞬間、少し擦った鈴鹿の手に、血が滲む。 (爪…?) けれどそれは、ただの爪というより、鋭利で。 まるで刃物のようにも感じた。 『鈴鹿。行こうよ?』 諦めない路に、鈴鹿は見た。 …赤く光る、冷たい瞳を。 (路…じゃない。) 人間ですら、無いのではないか。 見た目は『黒川 路』そのもの。 けれど、沸き上がってくる恐怖心は、友に対するものでは、無い。 「嫌よ。路じゃない。あなた、誰。」 気丈に振る舞う鈴鹿だが、足は竦み、身体は小刻みに震えている。 『黒川 路、だよ。…見た目はね。』 そう、見た目は自分の知る、クラスメート。 『これ?入れ物だよ、ただの。人間の器。』 …なんと、言った? 入れ物?器? 『姫宮 鈴鹿。人間に宿り、紛れていたから苦労したよ。』 (聞きたくない。) 身体中が、拒絶しているのが分かる。 『鈴鹿御前。古参の鬼姫にして、我が妻よ。』 どんなに耳を塞いでも、頑なに瞼を閉じても、脳裏に焼き付く低い声。 (な…に…?鬼?…妻?) 鈴鹿の思考が、非・現実的な言葉に、付いていけない。 『分かったかな?ほら、戻っておいで。鈴鹿…』 再度、忍び伸びてくる手に、身構える鈴鹿。 その腕に、鋭い爪の先が触れる。 ―瞬間。    た・す・け・て
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