序章

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自分はどうなってしまうのか。 鈴鹿は悲痛な涙を流すばかり。 入り乱れる、不安と恐怖。 (助けて…) 鈴鹿の心の声。 『御前、お助け致そう。』 それに答えたのは、聞き慣れぬ女の声だった。 『我等が姫よ。御守り致そう。』 背後から聞こえる女の声に、鈴鹿は優しく抱き締められる。 何事か…状況を飲み込めない鈴鹿。 けれど…パチン!闇が、裂けた。 目の前から姿を消す鈴鹿に、路はクツクツ。喉を鳴らす。 『流石は鈴鹿御前。鬼の加護を受けし、鬼姫よ。』 ……………と。 足元を急に引き摺り落とされたような感覚に、鈴鹿は小さく悲鳴を漏らした。 「った…」 同時に、後頭部から腰背部にかけて走る、鈍い痛み。 (痛い…夢・じゃ、ない…) 「ここは…学校?」 夕暮れに染まる見慣れた景色。 毎日のように通う、高校。 毎日と変わらない、自分の教室。 「何が…」 起きてるの? 口にしかけて、鈴鹿は窓ガラスに写る自分の姿に、驚愕した。 触れても分かる額に在る、二本の‘それ’は… 「何…これ…」 小さくとも、先の尖った…角。 『鬼』の象徴。 ガリガリガリガリ… 鈴鹿は掻き、もぎ取るように額を掻きむしる。 「どうなってるの…何よ…これ。何なのよ――っ!」 未知なる恐怖・焦燥・不安。 そして、未だ脳裏に響く幾人かの、女の声。 『御前、如何致そう。』 『姫よ。御守り致そう。』 『御前。』 『姫。』 「…止めて。知らない…そんなの知らない!私は…私は…」 『姫宮 鈴鹿。だよね。でも違う。分かっただろう?』 己の正体を、その目で見て。 …追いついて、来たのか。 路であって、路でない・もの。 それでも見慣れた友の姿形に、縋らずに居られない。 「路…何を言ってるの?私は…姫宮 鈴鹿。それ以上でも、それ以下でも無い。」 ましてや…‘鬼の姫’など。 「路だって…」 言いかけて、ハッとする。 路だって? …いつから居た? 『黒川 路』は、いつから居た? クラスメートなのに? 存在していた記憶が、薄れていく。 路は頭を抱え、記憶を辿るような鈴鹿に、恍惚とした笑みを浮かべた。
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