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静かに瞳を閉じ、耳を澄ませる。
感じる。人間の気配・内に潜む血脈の、規則正しく強い動き。
(一人じゃない。)
複数の人間の気配を、感じ取りながら思う。
不意に額に手をやれば、角の形跡も無いけれど。
(段々と…人間から掛け離れていく…)
懐かしい、人間であった頃の、自分。
「お帰りなさい」
―優しい母。
「スカートが短くないか?」
―少し厳しい父。
喧嘩しながらも、夜中まで話し、遊び、笑った兄妹。
(もう、帰れない。悪路王…人間ではない。と、自覚してしまっては、誰も捲き込みたく無い。)
思い出に耽り、深く決意する鈴鹿は、聞こえてくる男達の声に、咄嗟に我に返る。
「結局、出る幕無しかよー。」
つまらない。その感情を声にする男。
「佐之、そう言うな。立派な御名を頂戴したじゃないか。」
困り果てたように、空笑いしながら諫める男。
「新八…けどよ?あれから昼夜問わずの、厳戒体制だぜ?おまけにこの暑さ!もたね――っ!」
男が茹だる暑さを蹴散らすように、天高く昇る太陽に、拳を振り上げる。
(先ずは二人。でも…まだ、居る。)
けれど…
(暑い…。傷が…)
背中が疼いて、意識が遠退きそうになる。
研ぎ澄ます神経が、もう無理だ。悲鳴を上げている。
「そうカリカリするな。もう壬生狼ーなんて呼ばれんだろ。我等あっての洛中秩序の回復。そう思えば、苦にもならんだろ?」
落ち着いた、紳士な声。
(これで三人。…もう一人、居る筈。)
それにしても…この時代。
一時期ブームになった、時代だ。
自分も、その波に乗った一人。
(洛中とは京の事だ。壬生狼といえば、壬生浪士組。新撰組の元の名。)
つまり。
(ここは江戸時代末期…)
「幕末だ…」
つい、口に漏らしてしまった鈴鹿の声に、男達の身構える声が。
「誰だ!?」
仕舞った!そう思えど、最早手遅れ。
男が言った、厳戒体制中に、時代に似つかわしくない衣服・足元を転がる、男の屍。
血に濡れた、自分。
全てが異質。
「言い訳の使用もない…」
はあ。鈴鹿の口から重い溜め息が漏れた、瞬間。
ドサッ!
夥しい出血と、暑さに耐えきれず、鈴鹿はその場にヘタリこんだ。
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