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遠くのほうで誰かの叫ぶ声が聞こえる。
…!……れ!
暗闇の中、だんだんと大きくなる声にイラツキを感じる。誰だ?何だよ一体。
…だ!……からだせ!
声がすぐ隣まで来た時、拓也は違和感を感じた。
いつものベッドの感触じゃない?…椅子か何かに座ってる感じだ。あれ?電車に乗ってたんだっけか…?寝過ごした?
目を開ける。
ぼんやりとコンクリートの床と自分の足が見える。
電車じゃないし、自分の部屋でもない。
どこだここ?
目を擦ろうと手を上げる。
…手が上がらない?
その時、
「おーい!」
大きな声が、すぐ隣から聞こえて拓也は驚いて身をそらした。
見ると、すぐ右隣に男がいた。
金属製の椅子に座って叫んでいる。
「誰かー!誰か出てこい!」
さっきの声はこの男だったようだ。
男は、サングラスとヘッドホンが一体化したような、奇妙なマスクを着けているため、顔は下半分しかわからない。
無精ひげや声の感じだと年齢は30半ばくらいか。
よく見ると、男の両手首は椅子のヒジ掛けに固定されているようだ。
その時、今度は左手から声が聞こえた。
「おっ、やっと気がついたか」
左側にも男がいた。その男も金属製の椅子に座り、奇妙なマスクを着けていた。
「この状況で今までグッスリ寝てたんだから余裕だなあんた。
まあ俺もちょっと前まで気を失ってたんだけどよ」
20歳前後だろうか。その男も両手首が固定されている。
「こ、ここはどこですか?」
拓也は聞いた。
「夢の中。とか」
男はにやりと答えた。
拓也は自分の手首も同じように固定されている事に気づいた。
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