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夜桜(完)
星明かりが照らす淡い色の花弁がひらひらと散る。
一人花の雨の中立ち尽くす青年は、舞い散る花弁にそっと手のひらを開く。
「綺麗だね」
散りゆく花を眺めながら、青年の背後に立つ黒髪の青年がそっと近づいた。
青年は開いた手のひらをぎゅっと握りしめるとばっと身を翻した。
「君もそう思うだろう?」
にこやかに笑む黒髪の青年の隣を通り過ぎる青年にそう訪ねるが、青年は見向きもせず立ち去ってしまった。
黒髪の青年はそんな青年の背中を見送り微笑する。
「散りゆくその姿が一番美しく、そして惨めであるんだけどね・・・」
その呟きは誰にも聞かれず、黒髪の青年は肩をすくめると舞い落ちる花弁を一瞥してその場を去った。
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