1人が本棚に入れています
本棚に追加
私立四葉学園には一つの伝説があった。
入試最下位で入って来た人物が、二学期には特進クラスに入り、そのまま卒業した。と言うものだ。
―しかし全く平凡な俺、新谷志貴(アラタニ シキ)には、そんな事ちっとも関係ない事で、ましてや今現在、保健医(しかも男)に壁まで攻め立てられている。そんな現実、理解できるはずもない。
「ー…えっと、せ、先生ぇ?」
「ん?」
「この状況は一体何なんでしょーか?」
「んーー?何だろうなぁ」
―…本当に、何なんだ。
数分前…
入学して一ヶ月も経つのに未だ道を覚えられない。
友達とははぐれたきり。携帯は…鞄の中。食堂に行くはずだったから、腹は減るし、実際…限界…。
「もォ…駄目……」
ふらついた俺の身体は、そのまま冷たく固い床に迎え入れられる予定だった。
が、
温かいし、柔らかい。
いや、柔らかいと言うより引き締まったー?
ゆっくり顔を上げてみるとそこには…整った、男の、顔…?
「…誰?」
「入学式は寝てたのか?」
「え、あーーー」
「寝てたのか。」
「ー…はい」
「フン」
さして興味がなさそうなのに、男は志貴の身体をぺたぺたと確かめるように触れる。
正直気持ち悪い。
空腹で力の入らない身体を叱咤して相手を押し退けようとした。
「あの…やめっ」
「体調が悪い訳ではないな。睡眠もたっぷりとってるだろうし。」
授業中に寝ているとでも言いたいのだろうか。
取り敢えずコレは触診だったようで、つまりこの人は保健医で…全然離れないのは何故だろう。
―もう殴っちゃおうか。
志貴は保健医を仰いだ。
ぐうぅぅぅ。
「…なるほど。」
今までなんとか押さえ込んでいたが、とうとう鳴ってしまった。
―俺の腹。
睨みを利かそうとした目は下を向き泳ぎだす。
徐々に顔に赤みが差し、わたわたとしだした志貴に、目の前の男は呟いた。
「可愛いな。お前。」
最初のコメントを投稿しよう!