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ピンポーン。
ありがちなドアのチャイムが鳴った深夜2時半。
こんな遅い時間だというのに
間髪いれずにチャイムがもう一回鳴った。
こんな時間に二度も鳴らすんだから、きっと知り合いか何かだろう。
とりあえず、インターホンのカメラから外を見れば
(竹、ちゃん…?)
俺が大切にしてやまない存在の
片割れがそこに、いた。
急いで鍵を開けてやると、こちらがドアノブに手をかけるよりも早くドアが開いた。
ガチャン。ガチャガチャ。
チェーンがひっかかって開かないドアを、
お構いなしにガチャガチャとひっぱるお前は
雨に降られびしょ濡れで、ひどく靄がかかったような表情をして俯いていて
つぅっと、雨に混じって大竹の頬を涙が撫でた。
その瞬間に俺は、何が有ったのかを、理解した。
どうしたら良いのか分からなくなって、でもこのままこんな夜更けに突っ立たせておくわけにもいかなくて
俺が恐る恐るチェーンを外せば、ドアが外れそうな勢いで開かれて
気付けば俺は、大竹の胸の中に居た。
「俺、もう、あいつ追っかけんの、やめます。
幸せになれそうもないし。誰も、報われない…!」
じわりと服が濡れていく。
大竹が触れた場所から、じわりじわりと。
時々言葉を詰まらせて震え泣くお前を肩越しで感じた瞬間に
同情だとか、慰めないとだとか、そんな気持ちよりも、なによりも先に
嬉しいと思ってしまった自分を、殴りたくなった。
自分がなによりも大切にしたい存在の中の一人がこれほどに
俺ではない誰かを思って泣いているのに
俺は、俺は。
ホントはどうしなきゃいけないのかだなんて、分かってる、はずなのに…
「もういいよ、辛かったろ…おいで。」
やんわりと背中に手を回して抱きしめて、言わなければいけない言葉は出さずに
本心似た労りの言葉を投げかける。
自覚出来るほどに普段よりも幾分優しい声色で。
きっと俺は、死ぬほど大事にしたいこいつらを
正しい方へ向かせてやるというただそれだけの事ができない
それどころかどちらにも優しい顔をして好かれようとしている。
…なんて分かりやすく狡い人間なんだろう。
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