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もちろん気絶している日野が立てた音でもなければ篤志でもない。
なら他の誰が?
しかし、休憩室に生きている人はいない。それに研究員は必ず何か靴を履くはず。ならば裸足で歩くような今の音はあまりにも常軌を逸している、あまりにも密かな音だった。
-ぴちゃ。
音は一歩近づく、力なく。
だが確実な一歩。
篤志は勇気を振り絞り振り返る。
見えない。
いや見えるはずがない、急に闇に落ちた辺りにまだ目が慣れてないのだ。
見えない恐怖に肌が粟立つ。
体が硬直する。
呼吸すら小さくなっていく。
何かがいる。闇を貫く視線が篤志に降り注いるのを感じる。
死人のように生気が無い気配は優しく篤志を撫でる。
その冷たい気配に身がすくむ。
背中を冷たい汗が流れる。
-ぴちゃ
腰の付近にあった手をわずかに前に動かそうとした。
…カツ。
篤志の手がポケットの中の何かに触れた。
視線を前方から変えず、震えながら取り出し。
一瞬視線を落とす。
握られた手には星型のストラップのついた水色の携帯電話。
そうだ、明かり!
携帯と認識した瞬間、それを開き明かりを前方に向けていた。
-ガシ
「え?」
後ろから。
左肩に衝撃。
視線を移し、携帯を向ける。
それは。
やけに白く静脈血管で異常に青い手だった。
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