一つ、人の世を覗き

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合図すると、与助と権十郎は塀をよじ登って屋敷の庭に入っていきました。 屋敷の庭は静まりかえっています。 犬神権十郎は、おもむろに背中に背負っていた鐘と木槌を取り出し、屋敷中に聞こえるように、力一杯叩きました。 屋敷で寝ていた人達は、その音に飛び起きました。 そして、お代官様に何かあったかと心配になり、部屋に駆けつけました。 代官は刀を持って、そわそわしています。 「いったい何事だ!?」と代官は言いました。 「何者かがタチの悪いイタズラをしたようです」お付きの者が言いました。 「追いかけて捕まえろ!ただではすまさん!」代官はかんかんに怒っています。 と、そこへ立派な恰好をした殿様と、犬神権十郎が入ってきました。 「誰だお前は」代官は叫び、身構えました。 「控えい!殿様の顔を忘れたか!」 犬神権十郎が叫びました。 「殿様がこんなところに来る訳が無い」と言いました。 「代官、お前が無茶な税を取り立てて、町人を困らせているのは城にまで届いているぞよ。お主が懐を肥やしているのは一目瞭然。いますぐにそれをここに出し、明日から税を元に戻すのだ。そして、罪も無いのに牢に入れた町人を出してやるのだ。言うことが聞けないならたたではすまさん。よいか?」 「はは~」と代官は手をついて頭を下げました。 「この多く取り立てたお金は、余が町人のために使うことにする。何か文句はあるか?あったら噛みつく…もとい、切って捨てるが」 「何もありません」 「よろしい、行くぞ犬神」 「はは~」 殿様と犬神は帰って行きました。 もうお気づきでしょう。 殿様は、実はキツネの与助が化けていたのです。
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