犬と猫と

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それが合図だったみたいに。 衝動的に俺の体は動いて、振り返り様に草太の腕を掴んでいた。 「……そーゆー冗談、一番ムカつくんだけど」 「冗談でいわねーよ」 こんなこと、という言葉は最後まで言わせてやらなかった。俺の理性は糸よりも脆い。それを知ってて焚きつけたお前が悪い。 「俺のこと、好きじゃねえくせに」 洗い晒しのまんまで傷んだくせっ毛に荒々しく指を絡めて、まっすぐ、まっすぐに草太を見据えた。草太の目が動揺の色を持つ前に早く、と。 自らを急かして触れた唇は、少しかさついていて、柔らかかった。 想像してたよりずっとあまいキスだった。 思ってたよりずっとへたくそでぎこちないキスだった。 俺は不覚にも泣いてしまいそうで、草太の肩口に顔を埋めてじっと目を閉じていた。 ああなんて情けない。 好きな子の前で泣くなよ俺。 情けないし、苦しい。 しんどいし、悲しい。 (だって俺はもう、) もうこのまま茹だるような熱と汗と想いと一緒に溶けて消えてしまってもいいとさえ。 思うのに。 (お前は全然、俺のことなんか見てない)  
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