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――理解し難い一番の出来事は、これだった…。
五月に行われた人里での祭り、やぐら太鼓の音が響き渡る広場に、タイハク、聖、星は居た。
星輦船を落としてしまった事、事情を知らずに襲い掛かった事など、お互いに和解する話をしていた。
太鼓の音に合わせて鼓笛の音色が飛び、盛り上がりに拍車が掛かる頃、聖はこう言った。
聖「人里という小さな場所だけですけども、ここでは人間も妖怪も関係無い。一つの人として、こうやって皆が笑顔で祭りを楽しんでいます」
祭りを見る、というにはとても崇高な理由だった。
祭り囃子に合わせ、人間と妖怪が互いに手を取り合って踊る。
その様を、彼女はとても嬉しそうに見ていた。
――慈悲に満ちたその雰囲気に、どこか心が引き寄せられるものを感じた…。
だが、次の言葉を言われた時、俺は聞き取れはしたが理解するまでには及ばなかった…。
聖「もう一つ、祭りを見たい理由があります…」
慈悲深いその笑みを、今度はタイハクだけに聖は向けた。
聖「…ただ単純に、貴方と一緒に見たかったんです…」
タイハク「…俺と…?」
――今となれば、理解が及ばなかったのでは無く、認知出来なかったと思うのが妥当な気がしてきた…。
…何せ、思念体の俺にとって、こんな事を言われるなんて想像すら出来なかったから…。
頭が混乱で停止してしまったタイハクは、ただその場で思考回復を固まって待つ事しかできなかった。
その時、人の波が急に動いた。
聖「きゃ!?」
タイハク「…っ!」
演奏の盛り上がりが最高潮を迎え、触発された人々が踊りながらやぐらの周りを動き始めたのだ。
運悪く、聖は波の中に飲まれ、流れのまま過ぎ行く人と共に行ってしまう。
星「聖っ!?ちょ…わっ!?」
タイハク「…!」
聖を追い掛けようとする星が人波に飲まれる瞬間、混乱する思考の中でもタイハクは反射的に流れの先に身体を割り込ませた。
星「うっ!」
正面から受け止め、抱き締めるような形で、タイハクは星が流されるのを防いだ。
タイハク「…大丈夫か?」
星「ぁ……」
状況に気付いた星は、頬を真っ赤にして石のように固まってしまった。
目線を下げても、頭頂部しか見えない為、タイハクが星の顔を見る事は出来なかった。
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