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エピソード②
「川浪絵奈さん、18歳」
「はい」
俺たちは向かいあって座っていた。
「18?じゃもう3月だから高校卒業だね。おめでとう」
「桐谷さん何をちゃっかりこの場に……」
「あっ、いえ。私その…中卒でして…すみません」
絵奈ちゃんはうつ向いて申し訳なさそうに言った。
ラブが桐谷を睨み付ける。
「わ…わかりました。だまってます!」
「で、川浪さんのご希望のタイムトラベル日は?」
「はい、7年前の2015年7月2日の自宅前でお願いします」
「自宅前…その日に何か特別な事でも?」
絵奈ちゃんは両手を膝の上に重ねると静かに話し出した。
「…………その日は私と母が、この街から「夜逃げ」した日なんです…」
「…………」
「夜逃…げ」
「ウチは母子家庭なんですが父が生前騙されて作った借金をずっと背負わされてきまして。ある時…返済がどうにもならず、遂に夜逃げしたんです。まあその後2ヶ月程で取り立て屋には見つかってしまったんですが。結局最後まで楽になれないまま母は先月過労で急死してしまいました…」
「じゃ借金は今、絵奈ちゃんの肩に?」
絵奈ちゃんは慌てて首を降りながら片手を上げ
「あ、借金は母の生命保険で全額返済できました。で、ちょうど40万程手元に残ったのでこちらへ――という訳です」
「じゃあお母さまを亡くされたばかりでお辛いでしょう」
「さあ…」
絵奈ちゃんは視線を下に向けた。
「正直…辛いような…ホッとしたような複雑な気分です」
絵奈ちゃんが膝に掛けたジャケットを両手でギュッと抱え込む。
「では2015年7月2日を川浪絵奈さんの脳内に再現致します。あくまで精神世界での出来事ですのでタイムパラドックスの心配は一切ありません」
「あ!所長さん。ひとつお願いがあるんですが…」
絵奈ちゃんが傍に置いてあったバックの中からゴソゴソと何かを取り出した。
「これをタイムトラベルに持っていく事って出来ますか…?」
チャリ…
おもちゃのカギ…?
「ええ、スキャンすれば反映可能ですがこれは…?」
「母の遺品整理の途中で出てきたんですが」
絵奈ちゃんが申し訳なさそうに笑った。
「私にとって思い出の品なんです。よろしくお願いします」
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