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澄の親父さんはずっと病気持ちだった――
「…済まない。仕事で通夜も葬式も来れず…」
彼女も父親の看病にと度々ヒマをみてはこの実家を訪れていた。
「中でお線香あげてもいいかな?」
「――ううん。アナタにはこの家の中に入って欲しくないの」
「…え?ど、どうして?」
その時、立て掛けてあった看板に気付いた。
故 谷 竜次葬儀場
……「谷 竜次」?
「「谷」って…澄、親父さんと名字違うのか…?」
「――…父母は幼い頃離婚してあたしは母に引き取られて。けどアタシ母とケンカしてこの家へまた戻ったのよ…。……そして、それから…」
ポ…ッ
その時、相澤澄の目から光る涙が落ちてきた。
「…くっ…うっ――」
わあああああ
――それは彼女が初めて俺に見せた心の底にある「もろさ」だった。
彼女の涙は父の死を悲しんだものだったのだろうか…?
――しかしそれを確かめる事なく、父親の葬儀から1週間後
彼女は交通事故でこの世を去ってしまった……
明日で彼女の一周忌だ。
ここでこんな体験をしてるのも何かの縁だろう。
俺は何故か無性に、この「高校生の澄」にもう一度会ってみたかった。
この頃最も多く見せていた。あの物憂げな表情に何となく「あの時の涙」が絡みついている様な…
「ふぅ…」
…ギシ
「――で、本題なんだけど――」
相澤澄は静かに俺に目を向けた。
「オジサン、あたしといくらでしたいの?」
「――――…は…?」
「ははっ…いいよ今更トボけなくたって」
俺は震える体を握り拳を固めて耐えた。
「あたしはお金さえ貰えればそれでイイんだから…あ、お金は前払いね。解ってるよね、それくらい――」
ブルブル…
相澤澄の言葉は止まらない。
「オジサン慣れてそうだし――」
パァン
ついに俺は相澤澄を平手で殴ってしまった。
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