エピソード①

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澄の親父さんはずっと病気持ちだった―― 「…済まない。仕事で通夜も葬式も来れず…」 彼女も父親の看病にと度々ヒマをみてはこの実家を訪れていた。 「中でお線香あげてもいいかな?」 「――ううん。アナタにはこの家の中に入って欲しくないの」 「…え?ど、どうして?」 その時、立て掛けてあった看板に気付いた。 故 谷 竜次葬儀場 ……「谷 竜次」? 「「谷」って…澄、親父さんと名字違うのか…?」 「――…父母は幼い頃離婚してあたしは母に引き取られて。けどアタシ母とケンカしてこの家へまた戻ったのよ…。……そして、それから…」 ポ…ッ その時、相澤澄の目から光る涙が落ちてきた。 「…くっ…うっ――」 わあああああ ――それは彼女が初めて俺に見せた心の底にある「もろさ」だった。 彼女の涙は父の死を悲しんだものだったのだろうか…? ――しかしそれを確かめる事なく、父親の葬儀から1週間後 彼女は交通事故でこの世を去ってしまった…… 明日で彼女の一周忌だ。 ここでこんな体験をしてるのも何かの縁だろう。 俺は何故か無性に、この「高校生の澄」にもう一度会ってみたかった。 この頃最も多く見せていた。あの物憂げな表情に何となく「あの時の涙」が絡みついている様な… 「ふぅ…」 …ギシ 「――で、本題なんだけど――」 相澤澄は静かに俺に目を向けた。 「オジサン、あたしといくらでしたいの?」 「――――…は…?」 「ははっ…いいよ今更トボけなくたって」 俺は震える体を握り拳を固めて耐えた。 「あたしはお金さえ貰えればそれでイイんだから…あ、お金は前払いね。解ってるよね、それくらい――」 ブルブル… 相澤澄の言葉は止まらない。 「オジサン慣れてそうだし――」 パァン ついに俺は相澤澄を平手で殴ってしまった。
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