エピソード①

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「!お前は研究所の……」 チェリーは肉球をこちらに向けていた。どうやら肉球はスピーカーにもなるらしい。 「確かに…俺は稼ぎも少なくて頼りがいもないかも知れない」 体の震えを止めようと力いっぱい握り拳を握った。 「……けど、一言…金の事でも父親の事でも、一言相談してくれたら…っ!!!」 「――桐谷さん、私この世の中って収まるべき所に収まってないモノが沢山あると思うんです。かけ違えてしまった靴紐のように。ひとつズレてしまうと成り立たなくなってしまうもの。過去のレールにそんなものがあるなら、それを気付かせてあげたい――そう思って私はこの仕事を始めました」 「…………」 「…当研究所の初来客記念サービスです」 ウィン チェリーが何かの紙をこちらに出した。 「どうぞ受け取ってください」 それは、まっさらな婚姻届だった。 「澄さんが事故に遭う直前に手に取っていたものです。澄さんは本当に一途な人だったと思いますよ」 夕日の陰ってきた墓石の前で俺はいつまでもまっさらな婚姻届を見つめていた。
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