エピソード①

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――限定された期間・地域内で好きな所に脳内トラベル出来る「SAKU LOVE ON研究所」 「ふう…」 そこで得た真実から過去のわだかまりを乗り越えられた俺は、ラブがその時語った台詞に密かに心動かされていた――。 ――この世の中って収まるべき所に収まってないモノが沢山あると思うんです。 かけ違えた靴紐のようにひとつズレると成り立たないもの。 過去のレールにそんなものがあるなら、それを気付かせてあげたい。私はそう思っています。 「だーかーらですね。桐谷さん、何度来られてもウチでは今、所員の募集はしてないんです」 シュボ 俺は壁に寄りかかりタバコに火を付けた。 「まぁまぁそう言わず、所長さま1人じゃ色々不便でしょ?俺、今無職だしこんなヤツでも1人いれば何かと」 ビシャ――ッ 大量の水が飛んできた。 「桐谷さんココ禁煙!火気厳禁です!!」 ダン! 椅子に足を叩き乗せながらラブがつり上がった目を向けた。 …水気はいいのかよ グラリ その時水で足が滑り、ラブが倒れかけた。 「わぁっ!!」 素早く俺はラブの体を支えに駆け出した。 どすん!! 「おわっ」 「!!」 ムニッ 柔らかい感触を感じながらラブに言った。 「おいおい、案外ドジだなぁ。所長さんってやっぱ助手は必須でしょ」 「ド、ドコさわってんですか――!!」 ドカ――ン!! コンコン 「あ、あの…」 ハッ 小さな声に気づきラブと後ろを振り返る。入り口のドアの前に1人の少女が立っていた。 「すみません…電車の広告見たんですが、40万円で市内をタイムトラベル出来るって本当でしょうか…」 「…………」 「あれ?俺ん時は50万じゃなかった?」 ラブが素早く目をそらす。 「だってあれからお客さん一人も来ないんですもん」 こうして俺の初仕事が始まった。
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