冬の足音

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無表情の顔が松明に照らされ、本の一瞬辛そうに見えた。 苦虫を噛み潰したというよりは、親しい者の死を悼んでいるように見えた。 「その人…衛兵の知り合い?」 「………… 幼なじみだ。あいつの事は分かっていたつもりだった。 まさかキリギリスに惚れるなんて…」 衛兵はちらりと俺を見て、牢屋の中に目を這わす。 「ちょうどそこの牢屋だ。 最後の一言を聞くまであいつの声は聞けなかった」 「…名前…。 キリギリスの名前はなんて?」 「ニーサ…だったか。思い出したくもない」 余程気に食わないのか眉を潜めると煙草を卓上に押し付け、けだるげに前髪を掻き上げた。 ゆったりと背もたれに身を預け、俺を見遣る。 「……そのキリギリス…。ガキが居たんだよ。あいつが死んだなんて知らないで女侍らせて笑ってやがった。 あいつは最後まで忘れてなかったのに、あのキリギリスは!!」 衛兵は憎悪の念を込めてそう吐き捨てた。 .
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