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 ギラギラと怒りに満ち満ちた黒い瞳。テラテラと唾液に濡れる鈍く尖った牙と、その隙間から漏れる呪詛のような低い唸り声。地面に貼り付くように身を伏せて、細胞のひとつひとつに力を溜め込んでいる。  それに対して俺に背中を向けた鬼は、自分より遥かに小さな獣を、ただ漫然と見下ろしているだけ。  辺りの空気が、限界まで引き絞った弓の弦のようにきりきりと張り詰め、次の瞬間、弦を爪弾く指が離れ、つがえた矢が放たれた。  ガウゥッッッ!!  ドガンッッ  それは瞬き程の一瞬の出来事――。
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