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 始めに犬が動いた。  溜めに溜め込んだ力を解き放って、鬼の喉笛めがけ牙を剥き出し飛び掛かる。  後手に回った鬼は素早く振り上げた手を握り、飛んでくる狂暴な白い矢を降り下ろした拳で撃ち落とした。  胴体にめり込んだ拳は骨を粉々に打ち砕き、内臓をズタズタに引き裂き、地面に叩き付けると原型すら残さず、飼い主と揃いの地面の赤い染みにする。  ベチャッ  犬が地面にぶち当たって水風船のように弾けた時、頬にぶつかった何かを指の腹を使って拭う。 「うっ――――!」  中指と薬指に赤くドロリと血の滴る肉の欠片がまとわり付いた。  キャパシティを遥か彼方にぶっちぎった恐怖が、ポンコツだった心と身体に火を入る。
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