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 分厚い皮に包まれたグローブみたいな巨大な手足には、カスが詰まって黒ずみ白く濁った、汚ならしく鋭く伸びた爪。耳まで裂けた口からは、黄ばんだ乱杭の牙が見え隠れしている。  だが、そんなものよりも一際目を引いたのは、暗く澱んだ金色の双眸――――その上の、長く伸びたシラミの湧いていそうなざんばらの不潔極まりない白髪を掻き分けてまっすぐ伸びる、額から生えた二本の捻れた角。  俺の想像が間違ってなけりゃ、桃太郎や一寸法師なんかに出て来ては退治されるお茶目で愉快な敵役――。 「…………お…に!?」  思わず漏らした呟きが、夜に流れる冷たい空気に飲み込まれる。  不思議ちゃんが垂れ流す世迷い言が飛び出して、現実が逆立ちして逃げ出した気分だ。  半裸の巨人――赤鬼の口から首筋、胸にかけて皮膚より紅いペンキのような液体で濡れていたが、もちろんお洒落で描いたボディペインティングなワケがない。  片手に長い茶髪を絡め奪られた、若い?女の血だ。
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