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「そうだね。じゃあ……君の瞳に乾杯」
くさい台詞を言って、グラスを合わせ、一口飲みほす。
「今日はクリスマスイブね」
「そうだね」
「私、プレゼントが欲しいの」
「僕に買えるものならなんでもあげるよ」
「貴方のすべてが欲しいの」
「……弱ったな。こうもはっきりと愛の告白をされるとは」
男は少し照れたような顔をした。
女はわかっていた。――これが男の芝居だと。
それをわかった上で、女は妖艶に微笑んだ。
「私、貴方の『すべて』が欲しいの」
次に男が目を覚ますと、朝になっていて、赤髪の女もいなくなっていた。
ついさっきまで夜だったのに。
男は慌ててホテルを出た。昨夜の女の言葉が繰り返し思い出される。
『私、貴方のすべてが欲しいの』
あれはどういう意味だったんだ?
それは家に入った瞬間分かった。
家のものがすべてなくなっていたのだ。
自分が女たちに貢がせた、宝石やブランド品や金品が『すべて』なくなっていた――。
「……ちっくしょう――!!」
男が声の限り叫ぶのを、赤髪――いや赤髪のウィッグを被っていた、金髪の女が外の車の中で聞いていた。
その車も男の車だ。
「ばぁーか」
楽しそうに呟いて、彼女は車を発進させ、朝靄の中へと消えていった。
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