序章

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…その夏。 その夏、三郎は陸軍士官学校に入学するハズだった。 陸軍士官学校…将来、国のために働き、国の中核を担う人間になれると認められた者だけが通える所。 三郎君は小学校4年の時から、自分で決意し、その為だけに努力して来た。 …小学校の先生には、いや、親兄弟にも驚かれたっけ… そんな夏に…憧れの陸軍士官学校に漸く入学出来る筈の夏に…日本は終戦を迎えた。 8月15日 途切れ途切れのラジオから玉音放送が流れる。 …不思議と三郎君はなにも感じなかった…ただ…自分より頭の良い筈の兄・二郎が…玉音放送を理解出来てないコトが…ただ不思議だった。 …それでも、周囲の大人達の態度が、否応なしに、二郎に事態を理解させようとする。 しかし、二郎は敗戦を受け入れられないでいる。 (あんなに頭の良い二郎兄が何故だろう?)三郎君はただただ不思議だった。 …なのに…三郎君もまた。 …入校式の日式の時間が近づくにつれ、三郎君の足は市ヶ谷へと、陸軍士官学校がある地へと、自然に向かっていた。 士官学校が近づくにつれ…三郎君のような…士官学校入学予定者が何処からかポツリポツリと集まって来ていた。 皆、入学式が行われる筈だった校庭に集まっている。 (やはり二郎兄さんが間違える訳なかったんだ。日本が負ける訳なかったんだ!) 士官学校入学予定者が大勢、集まって来る様が…三郎君に…そう思わせてしまう…! 士官学校の校庭では、集まった生徒は、皆、一言も言わず、ただ…壇上を見つめている。
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