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終戦一年後 前編
「キャー、敘子さんの弟君。素敵ですね」
三郎君は敘子姉さんの同僚に大注目を浴びている。
「もぅ皆ってば。」
敘子姉さん大喜びである。
「恥ずかしいな。姉さん。お世辞に決まってるだろ。」
…ん?
…三郎君…君の方がニヤケてないか?
今日は三越の家族割引の日。
三郎君は敘子姉さんの命令で、敘子姉さんの働く三越に買い出しに来ていた。
ここは、別世界だ。
以前と同じ立派な建物。
華やかで、何処から来たのかと思うような、豊富な品物が集まっている。
とても戦争があったとは信じられない。
今は、終戦1年後。
三郎君は、必死で勉強して、一橋大学に合格していた。
幸い、一橋には…三郎君みたいな…予科練上がりが結構いた。
何も言わなくても、通じるモノがある仲間に囲まれている。
良いものだ。
…ここから未来を取り戻す!
終戦以来、ドコか大人しくなってしまった次郎アニキの代わりに!
俺が、女子供どもを引っ張っていくんだ!
一郎兄貴が帰ってくるその日まで!
さて、三郎君達は東京の清水寺の子供である。
兄弟4人+姉1人。
一郎・敘子・次郎・三郎・四郎の順である。5人兄弟の大所帯だ。
もっとも当時は、これが普通だった。
跡継ぎの一郎兄貴が特攻隊に志願した時は、どうなる事かと思った。
しかし、幸いにも兄貴の順番の前に、特攻隊の飛行機が、なくなっていたのだ。
世の中、何が幸いするか分からない。
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