月の目

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「これを聞いてみて」 「えっ」 思わず手にとってしまう。 よく見れば携帯電話にはイヤホンが差し込まれていた。 嫌だな、と思いながら、僕は恐る恐る、イヤホンを耳にはめた。 わずかな雑音と共に、一本調子の発声練習みたいな声が流れてきた。 『ア、ア、ア、ア』 「これ、誰の声だかわかる?」 「三輪の声じゃないか」 携帯電話のボイスレコーダーで録音したのだろう。 「やっぱりそうなんだ。でも私にはまったく知らない人の声に聞こえる」 「それは誰でもそうだろ。自分の耳に聞こえている声と他人に聞こえる声は違うんだ」 「どっちの声が本物」
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