月の目

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一箇所だけ、写真のない部分があった。 そこには引きつった表情の僕がいた。 鏡だ。 大きな鏡がかけてあり、その部分だけは写真が無い。 自分の写真と鏡だけ。 彼女は自分に囲まれ暮らしている。 ふと天井を見上げて戦慄した。 天井もだ。 一体どうやって貼ったのか、彼女の写真がびっしりと覆っている。 満面の笑顔で頭上から僕を見下ろす写真と目が合った。 今にもその写真は口を開いてこう言いそうだった。 ― 今ごろ気付いたの平井君? ここからずっと見ていたのに
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