月の目

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月の目

駅を出て空を見上げると、 満月が異様に大きかった。 僕はびくりとして目をそらした。 満月のあの丸みが嫌だ。 あの丸みは肉体だけが持つたぐいの丸みだ。 月が石の塊とはとても思えない。 あれはまるでからだの一部だ。 白くて 丸くて たとえば目玉。 いつか満月の上の端から、 黒目がぎょろりと覗きそうで恐ろしい。 こちらが見てるときは、 ああやって白目を剥いて死んだふりをしている。 しかしこちらがあさっての方を向いた隙に、 隠れていた黒目が僕を見つめる。 いつもじっと観察している。
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