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深い霧 温かい声
そこは深い霧に包まれた世界。
何も見えない世界。
何も分からない世界。
久美の知らない世界だった。
「久美…」
どこからかともなくあたしを呼ぶ声が聞こえた。
その声は、お母さんでもお父さんでも、おばあちゃんでもおじいちゃんの声でもない。久美の知らない女の人の声だった。
その声には、全身を包み込むような温かみと優しさが溢れていた。なぜだか知らない声なのに、恐怖などまったく感じてはいなかった。
「久美…」
さっきよりも、少しだけ強く響く声で呼ばれた。
名前を呼ばれて返事をしないのは、やっぱり失礼だよね。
まったく知らない声の主に返事をする。
「私が久美だよ、あなたは誰??」
少しの間が空いてから声が返ってきた。
「やっと返事をしてくれたね、久美。さっきから私はずっと、あなたを呼んでいたのよ」
さっきから??
そんなはずはない。だって2回しか名前呼ばれてないもん。
「いいえ、私はあなたを呼んでいたわ。ただ私の声にあなたが気付いていなかっただけ」
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