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深い眠りについていたと思っていた
倒れ込むように隠れ家に戻り、シャワーで泥を落とし、凍えた身体を温めた
綺麗に整えられたベッドにもぐり込むと
疲労感は後悔で苛立つ頭を制し瞬く間に眠りへと導く
抗いもせず、彼は闇へと身を委せた
―闇の中、教会の鐘が鳴り響いていた
…いや…
あれは…サイレン?
急に覚えた息苦しさに身を捩る
闇のように暗い夜の中、手を引かれて歩いている子供
見覚えがあるといえばあり、無いといえば無いような
まだ幼い子供は、誰かに手を引かれ、必死に歩いているようだ
唐突に視点は変わり
自分の手を握る相手の背中を眺める
歩みが早く、息を切らして走らねば間に合わない
まさか…母さん?…いや…父さん?
顔も知らぬ肉親を呼んでみるが返事は無い
無言のままの相手に恐怖が湧き、全身で抵抗し立ち止まる
…嫌だ
そっちには行きたくない…手を…離して…
この子供は俺?これは俺の記憶?
いや…夢…ただの夢だ…
意識を取り戻そうと、何度も体を捩る
現実なのか夢なのか、二つの意識は重なっては離れ、目覚めを許さない
…駄目だ!そこには…!
思わず目を覆った瞬間、轟音が鳴り響き
同時に焼けつく様な熱さを背中に感じた
ふっと握られていた手が離れ…
全てが白く染まる中、ゆっくりと相手は振り向き、その手の持ち主の顔が見えた…
それは紛れもない自分の姿だった
あれは…………俺!?
飛び起きた反動で激しく咳き込む
頬を伝っていたのは涙か
…気持ちが悪い
先程の雨に濡れ直したかのように
冷たい汗が全身を濡らしていた
嫌な夢だった
…あの嫌悪感は一体
孤児院に預けられたというその前後の記憶が自分には無い
無い…というよりは、はっきりしない…と言った方が正しいか
いつ
誰が
何故?
赤子の頃というならまだしも、預けられた事はわかる年齢だったのだ
自分がそれを憶えていない筈が無い…
ではその記憶は…?
眠った筈が
余計疲れを増して目を醒ました
嫌な1日になりそうだと、溜め息をつく
明け始めた夜を窓から眺めながら
耳に残る鐘の音を思い出していた―
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