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『ちぇっ、結局…逃げられたって訳かぁ』
赤い髪の男は額から伝う血に気付き、掌で無造作に拭うと、それをペロリと舐め、不味そうに舌を出した
謎の男を追って潜入したアジトでは、予想以上の火力で迎え撃たれた
本拠地という規模の大きさではなかった。分散して活動するための拠点の一つ…程度
それにしては…の装備だったのだ
かなりの大きさの組織である事は間違いない
一体、目的は何なのか…
単純に自分達が追う財宝を横取りする同業者という雰囲気は微塵もなかった
寧ろ、狙われていたのは自分達ではなかったのか…
潜入までの、容易さから、周到に用意された罠であったかのようにすら思う。
こんな事を生業にしている以上、少なからず名前は知られているだろうし
それだけの事はしてきた
お宝を奪われた相手からの報復や恨みなど、数え挙げればキリが無い
大体が後ろ暗いブツが故か、表立った騒ぎにはならない事が多いのだが
今回の様な普段とは変わったミッション…
隠された海賊の財宝…
怪盗の目前に吊るされた餌としては不自然過ぎる程、出来すぎている
そもそも、その財宝を発掘するべく示された場所すらもが
怪しく思えて来るのだ
ため息を着き、床に置いた手の下で、触れる冷たい感触
青い石のはめ込まれた、金色のペンダント
アジトの中で再び対峙した謎の男が、落として行った物だ
今度は相手の得物もわかった状態で戦って、互角に渡り合えたはずだ
終始口元に薄い笑いを張り付かせた男は、感情の無い冷たい声で言った
『面倒な事は嫌いでね』
その男の懐から落ちたペンダントは、あの夜自分の動きを止めたものだった
胸元に光る金色の光に、身体は硬直したように固まり
易々と男に出し抜かれてしまったのだ
今見ても、見覚えのない、何の変哲もないペンダントだ
失われた財宝のリストに載っていた記憶もない…
何が自分を惑わせたのか、全くわからないが
唯一の手掛かりである事は間違いない
それ以上は考えるのを止め、上着の懐に布で包んで放り込んだ
とりあえずミッションは終了したのだ
ふと、白髪の紳士の嫌味な顔が浮かんで、軽く目眩を覚えたが
仕方ない…
お互いに手を貸し立ち上がり、その場を後にした
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