二夜

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扉は音も立てずに開いて行き、部屋は闇に包まれて…私はそ~と静かに部屋に入り母の姿を探したのです。 母は…いました。何故かフトンの上に正座し、俯いていました。 私が、声をかけようとした時… ガシャーン!ガチャガチャガシャーン! 今までにない凄い音が台所からしたのです! 私は心臓が止まるかと思うほどに驚き、台所に行こうとした時… (イクナ!) 私は、またその声に驚き振り向いて…そこには、フトンの上で、正座したままの母の姿…違っていたのは、俯いていた母の顔が、真っ直ぐ私を見ていた事…そして…母であって母でない顔。 暗闇の中、母の顔は青白く浮かび上がり、目は吊り上がり赤く光って…口元は、薄笑いを浮かべていました。 (…だ…れ?…)震えながら私は、母に…いいえ、母であって母でないものに問い掛けました。 (我は、稲荷) 低音のカスレ声ながら、はっきりと聞こえました。 (い…なり?) (狐じゃ) (きつね?お狐さま?) 私の脳裏に、あの小さな祠が浮かび上がりました。 (そう、あの祠に奉られているのは、我じゃ) ガシャーン!パリン! 台所からの音がまた激しく鳴り響く! (案ずるな…我が来たから、抵抗しておるだけじゃ…) 薄笑いを浮かべながら、母の姿をしたお狐様は、私を見据えて 言いました。 (娘…我に答えよ!あれを食したか?)と。 初めは私、何の事だか解りませんでした。 (何を…?)と、聞き返そうとした時… ギシッ…ミシッ… いつの間にか、台所の音は止み…誰かが、階段を上がって来る…? ミシッ… (娘!我の所に来い!) ギシッ… (何をしておる!アレに喰われたいか!) 今までと違う厳しい声と、アレ、という言葉に私は驚き、無意識に母の姿をしたお狐様の側に、走り込みました。 お狐様は、私を両腕で包み込むように、抱きしめてくれました。
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