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ミシッ…ギシッ…
母の部屋に…確実に近ずいてくる…
……何か…扉に立っている!
私を抱く両腕に力が入った…私は、恐る恐る顔を扉に向けた。
そこに、立っていたものは…
暗闇に浮かび上がる、侍のような姿でした。袴姿と腰に刀のような物を挿して…。
そうですわ。テレビなど時代ドラマで見るような侍姿でした。
でも、本当に侍だったのか…だって、首が…無かったのです。
首の無い幽霊?首…!
私は、昼前に襖に浮かんでいた、ザンバラ髪の首だけの侍の幽霊を思い浮かべた時…
(愚かな…己の首を捜し、さ迷ってるだけなら許せたものを!アヤツに唆されたか?!)
母の姿をしたお狐様は、そう言いながら、私の前に立ち上がりました。
首の無い侍姿の幽霊は、静かに…ゆっくりと右手を左腰に挿してある刀に持って行き…今にも切り掛かって来るようでした。
一瞬にして、空気は凍りついたよに、肌がピリピリと痛い感じで…
あれが、殺気、というものなのでしょうか?
凍りつくような空気の中
お狐様は、厳しく、そして哀しい声で…
(オヌシは勝てん!まだ我の力の方が勝る…それが解らぬか!)
その言葉が言い終わると同時に、首の無い侍姿の幽霊の刀が抜かれ、お狐様に切り掛かって!その瞬間、私の目の前から母の姿が消え、光りの矢のようなものが、首の無い侍姿の幽霊の胸を貫いたのです。
本当に一瞬の出来事でした。
光りの矢に貫抜かれた首の無い侍姿の幽霊は、ゆっくりと膝を折り倒れて行きました。
私は怖さも忘れ、ただ見ていました。
光りの矢は、徐々に形を変えていき一匹の狐の姿になっていました。
そして、もう一つ浮かび上がる…首?ザンバラ髪の侍の首!
(オヌシはどうする?)
お狐様の問い掛けに、首だけの侍の幽霊は、静かに自分の胴体を見つめ、
(私は、これと参ります。例え地獄の又奥の闇に落とされても…やっと、一つに…長い間この時を…)
泣いているような声でした。
(娘よ…すまぬ…)
そう言って、倒れている首の無い幽霊と、首だけの幽霊は暗闇に溶け込むように消えて行ったのです。
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