一夜

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聞こえてくる、あの不気味な音…ヒィ~シュ~ヒィァ~ その音が暗闇にうごめくアレの息ずかいなのだと…そして吐き気がする程の嫌な臭い! 私は、顔を背けようとしましたが全く身体が動かす事が出来ません。 そして、アレはゆっくりと口元を開いていき私に近ずいてきたのです。 暗闇に浮かぶ少し黄色がかった歯。 恐ろしい事に、その歯は犬や猫のように尖っていました。そして、アレは私に手を差し延べて来たのです! (食べられちゃうんだ!)と思い、必死で動こうとしましたが全く動かない。必死で助けを呼ぼうとも、声もでない! (オ…イ…)ヒィァ~シュ 何か言った?息ずかいの音に消されて聞きとれなかったのですが、確かに何か言ったようでした。 ヒィァ~(オ、イ…デ) え?(おいで)って?言ったの? (いやだ!やだ~!) 私は、心の中で叫んでいました。そして、アレ、の手が私の目の前に差し出され、私はその手の中にある物に目を向けました。 暗闇に鮮やかな赤色の… 何か。その赤色からアレの細長く延びた指の間から、滴り落ちる赤い水。私は恐怖心も忘れす、その赤色の何かと赤い水を見ていました。 ヒィ~シュ~… (オ…タベ) たべる?この赤い何かを?たべるの? 目を上にあげるとアレの顔がいつの間にか近くにあって… え?顔を見たのかと? いいえ、近くに顔があったのにアレの顔は見えませんでした。顔だけではなく身体全体が暗闇に溶けこんでいるようで。ただ、アレの鋭く尖った歯と、黄色く濁んだ目だけは、はっきりと見えました。
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