一夜

5/8
前へ
/119ページ
次へ
ヒィァ~(オ…タベ) アレは、聞き取りにくいカスレた声で、その赤い物を私の口元まで、差し出してきた。 (たべたくない!たべたくないよ~)心の中で、泣きながら叫んでるのに…どうしてか、私の唇が少しずつ開いていくのです。 (やだ…なんで…たべたくないのに…) 私のそんな気持ちとは、反対に唇は大きく開いて行きました。 そして、アレは私の口の中にあの赤い物を入れてきた時…(………!!) 誰かが叫んだと、思った瞬間 ギヒャア~!!ヒィァ、ギャァ~!! アレの悲鳴と、同時にアレはのけ反り悲鳴なのか、あの不気味な息づかいの音なのか分からない声を叫びながら、暗闇の中もがき苦しんでいるようでした。そして、暗闇の中アレと違う何かがいたのです。 えぇ…やはり姿は見えません。ですが確かにいたのです。ですが、アレとは違って不思議と怖さを感じませんでした。 (だ~れ?)心の中で言ったのか、口から出た言葉なのかは、今だ解りませんが、アレと違うものは、静かに私の方にやって来て、そっと優しく私の頭を撫で、消えていきました。いつの間にかアレもいなくなっていました。と、同時に暗闇が薄れ周りを見る事ができましたし、身体も動くようになっていました。 部屋からいなくなったと思った祖母も、ちゃんと隣で寝ていました。 私は、すぐに祖母のフトンに潜り込み、いつの間にか深い眠りに入っていったのです。 朝起きて、寝ぼけながら夢を見たのかなぁ?怖い夢…祖母は土間で朝ご飯の仕度をしている。 目を擦りながら祖母の元に行くと、(今日からは、おかぁさんの所に行くんだからね…)と言いながら、振り向いた瞬間、祖母はそれっきり何も言わず、立ちすくんでしまいました。 唇はワナワナと震え、目からは涙が…。 驚いた私は、何も言えずただ立って祖母を見ていました。 祖母は泣きながら私に近ずいて、ひざまつき薄汚れた前掛けで私の口元を拭きはじめたのです。 (ごめんなぁ…許してなぁ…)と、震えた声で何度も謝りながら、私の口元を拭くのです。 私が話しかけようとした時、祖母は後ろを向きかけていて、口元を拭いていた前掛けが、少し薄赤くついていたのを見たのです。 (夢じゃなかったのかなぁ…)でも、幼い私は祖母にどう話していいか解らず、そして何故か怖かった。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

148人が本棚に入れています
本棚に追加