タンザナイト 颯爽登場

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 彼はそれを握りつぶしながら、煙草の端を噛み締める。 「あのー……館内は禁煙ですが……」 「解っている! 火を点けなければ問題なぁいッ!」  館長のおどおどした注意を怒鳴り返す警部。  彼は火の点いていない煙草を咥えながら時計に目を配る。  時計の針は7時55分。 「犯行予告まで、あと5分か……」  彼は煙草に火を点けようとするが、館長に制止される。 「ですから、館内は禁煙と……」 「いつもの癖だ! 気にするな!」  怒鳴り返してライターをポケットにしまう上山警部。  そんな彼を見て、警備員の一人が声を潜めて隣の警備員に呟く。 「警部、いつもどおり荒れているな」 「まぁ、このところ、タンザナイトに出し抜かれまくっているからなぁ……」 「ああ、それで今度こそ捕まえようと必死なんだ」  頷く警備員達。 「ところで、腑に落ちないことがあるんだが……なんでその予告状、館長じゃなく警部のところに?」 「さぁ……? タンザナイトも、警部をライバルと認めてるんじゃない?」  その時である。 「真面目にやらんと、貴様等を真っ先に検挙するぞ!」  警部のその声に、水を打ったかのように黙り込む警備員!  それを見て、警部は再び煙草に火を点けようとする。 「ですから、館内は……」 「禁煙だろう?」  館長を睨みつけ、ライターをしまう警部。  時計の針は7時57分を指していた。  その頃、美術館の外では……? 「さぁて、そろそろ華麗に始めますか」  高級スーツに身を包んだ男が、眼鏡を直しながら不敵な笑みを浮かべていた。
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