怪盗ガーベラ 妖艶に笑う

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「それで、今日はどんなお話を持ってきたの?」  グラスに入った氷を鳴らしながら、ガーベラは男に聞いた。どうやら彼は、ただの客ではないようだ。  男は煙草に火を咥える。咄嗟にライターを差し出すのはガーベラの仕事だ。  煙を吹かし、男は口を開く。 「『ディープレッド』の噂だ」  『ディープレッド』。そう、裏の世界で有名な『消えた宝珠』である。  ガーベラはグラスを男の前に置き、その話を黙って聞いている。 「どうやらディープレッドは、既に何者かが手に入れているらしい」 「無くなったんではなくて、盗まれた……って事?」  男はグラスの中身を一気に空にする。ガーベラは新たにグラスに氷を入れ、かき混ぜながら話を聞き続けている。 「そうだ、俺の憶測だが、盗んだとされる者はかなり危険な奴等が勢ぞろいだ。  アメリカ出身の『ゴッド・フィアー』、マフィアのボス『ドン・コステロ』、それとテロリストの疑いも高い『ドン・ラビン』など、狙ってきそうな奴を並べただけでもゾッとするぜ」  並べられた名前が恐ろしいのか、一瞬ガーベラの手が止まる。 「く……詳しいわね」 「あと、他には三丁目の田中さんが怪しいとされてるが、どうでもいいや」 「それは……どうでもいいわね」  男は二杯目のグラスを一気に空にする。 「ところで、お前、予告状を叩き付けたそうだな。大都会美術館へ」  淡々と語る男の声に、ガーベラは少したじろぐ。 「あまり大きな声で言わないでよ。『裏の稼業』は言わない約束でしょ?」 「……そうだな、表立って『怪盗』名乗る奴はいないか……」  男は笑うと、席を立つ。  ガーベラはまたいつもの微笑を浮かべ、彼を見送る。 「ありがと、情報屋さん」 「ふっ、情報を持ってくるのが情報屋だぜ。『怪盗』ガーベラ」  店を後にしようとする情報屋の腕を、ガーベラは優しく掴む。 「……お会計、13500円、情報料代わりのサービスよ」 「おいおい、俺は麦茶を二杯飲んだだけだろ」  外は冷たい雨が降っていた。  どうやら、明日の夜になっても止みそうにもないだろう。
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